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シェルターアイランドの一日

  • Keikoic
  • 2017年8月18日
  • 読了時間: 5分

アパートでは、暮らしに必要最低限な用事と装備だけは済ませたが、日本から送った引越し荷物がまだ(まだ!)来ないので、不便もあれば、片付きもしないし、何より気分が落ち着かない。来週には大学のオリエンテーションが始まるのに、このままやきもき、ただ油を売って過ごすのも勿体ない。「そうだ、ダイアナに連絡してみよう!」

「どうしてる?」とテキストを送ると、ダイアナは、「月曜日シェルターアイランドに来る?」と即返事をくれた。彼女は、同じ大学院のコースの一年先輩に当たる学生さん。といっても、私とほぼ同世代。入学を決める前、教授とのスカイプ面接の直後、学生の声も聞いてみたいだろうとの配慮から紹介してもらった。日本にいるときに一度スカイプ・ミーとし、二度目はニューヨークに来てから大学近くのカフェで会い、とても親切で信頼のおける先輩を得てラッキー!と思っていた。何人かいる学生のうち、この人を紹介してくれるとは、教授もセンスがいい!(私の身上を理解した上でのことだろう。)

さて、シェルターアイランドとは?恥ずかしながら彼女に誘われるまで名前も知らなかったのだが、ロングアイランドの東端で分岐しているノース・フォークとサウス・フォークの間にある小さな島。全米有数のお金持ちアドレスである、かのハンプトンのすぐ側に位置し、一帯は夏の間は瀟洒な避暑地として盛り上がる。シェルターアイランドに、ダイアナは家族とこの夏の間住む家を借りている。付け加えると、彼女には夫と子供二人の家族がある。(それが私と大きく違う点。)一年前にパーソンズ大学院で学ぶため、家族と離れて単身ニューヨークにアパートを借り、授業がある間は別々に暮らしていた訳だ。もっと言うと、長男が大学で家を出たので、家族が三箇所に分かれて暮らす一年を経て、この夏、昔から縁があるというシェルターアイランドに再集合することしたという。直近家族で暮らしていた家は中西部だから、大移動だ。

話を戻して、私はダイアナの誘いに、二つ返事で、シェアルターアイランド行きを決めると、早速完璧な日帰りプランを組んでくれた。電話口で、一緒にパソコンを開きながら、「バスは、マンハッタンのどのバス停から乗って、ノース・フォーク周りでGreenportまで来て。そこで待ってるから。あ、帰りは、せっかくだから、サウス・フォーク側のSag Harborからチケットを買って。こっちは全然街の雰囲気が違うし、この帰りのバスはウェスト・サイドまで行くかもしれない。」などなど、手取り足取り誘導してくれる。

当日、Greenportに到着すると、手を振って迎えてくれて、あとは彼女に身を任せるのみ。Greenportを少し散歩し、カメラ・オブスキュラを体験した後、フェリー(渡し船)で向かいのシェルターアイランドへ渡り、彼女らがメンバーになっているヨットクラブでランチをご馳走になった。英国風アメリカン・クラシックの豪邸が立ち並ぶシェルターアイランド・ハイツをドライブし、自然保護区で色んな種類の鳥を観察し、最後は彼女らが住むとても素敵な水辺の家で日本茶を飲みながら、ゆっくり、学業のこと、人生のこと、沢山話をした。

と、私は只々楽しませてもらっていたのだが、実は、道中、一つ問題が起きた。この日は、ダイアナの家族は、旦那さんは終日ニューヨーク市側に出かけており、上の子はバイト、下の子はカリフォルニアのキャンプに参加していて明日まで帰ってこないので、私に付き合うには都合がいいということになっていた。ところが、カリフォリニアでキャンプ中の息子さんが、目に感染症が出て、急遽病院で精密検査をすることになったと彼女に連絡が入ってきた。精密検査をしてすぐに結果が判ればいいが、長引く場合は、息子さんは明日予定していた飛行機に乗れなくなる。そうなると、親のどちらかがカリフォルニアに向かった方がよかろう。ならば、夫か彼女のどちらが行くか。今から何時の飛行機が取れるのか・・・と、ドライブ中も、スピーカーフォンで夫婦の会話が続く。

この間ずっと、ダイアナは私に一切嫌な思いをさせることなく、朗らかに相手をしてくれながら、同時に息子さんの件は、流石の夫婦の連携プレーで、逐一状況を共有しながらテキパキと備えを進めていた。スーパー・ウーマンだ。同世代の女性で、仕事を一旦休止し、人生のこの時期に同じ大学院のコースに入るという共通点は心理的にはとても大きいが、彼女は家庭を大切にする妻でも母でもあるという点は大きな違いだ。彼女のような人が、同じ一日24時間×365日をどのようにマネージしているのかと思うと想像もつかない。しかも、その時の家族の状況に合わせて、これまでも全米、外国も含めて、文化圏の違う各地を移動してこられた。私のような鈍い人間には到底できない業をこなしているに違いない。

幸い、息子さんの病状は大事には至らず、カリフォルニアまで駆けつける必要は無くなった。私にとってはあっという間に過ぎた一日、彼女にとっては、さぞかし気を揉む長い一日だっただろう。帰りのバスが出るSag Harborまで送ってくれたダイアナは、出発まで少し時間があったので、「バスで食べられるようにサンドイッチでも買う?」と近くのグルメスーパーに案内してくれた。簡単にパニーニ一つ買っただけの私と対照的に、彼女の買い物カゴには家族のための食材があれこれと入っていた。バスはここから出るはずと丁寧に場所を確認してくれたところでお別れし(最後まで優しい!)、彼女は車で家路につく。バスを待つ短い時間、賑やかなSag Harborから帰れるというのに、一瞬無性に寂しい気分になった。遠出して日が落ちる前に家に帰らなきゃっていう時には、それが何処でも何歳になってもなんとなく寂しいものなのか、それとも家族の元に帰っていくダイアナの姿を見て、「いいな〜!」と羨ましく思ったのか。たぶん、その両方だ。いやいや、センチメンタルになっている場合ではない!!マンハッタンに帰るんだし!小旅行から「マンハッタンに帰る」という行為にも、この夏何度か繰り返しているうちに、早くもうっすらと「うちに帰る感」が芽生えてきた😘。引越し荷物も未だに届いていないけれど。

シェルターアイランド:

"36 Hours on Shelter Island, N.Y." by New York Times

Sag Harbor


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